頑張れ、ベンチャー経営者!

トップの意識がどこを向いているのかが肝心。
勇気を持って決断し、誠意を持って臨めば、
短期間で結果はついてきます。

    有限会社アッシュインターナショナル    
代表取締役
建入 ひとみ
Hitomi Tachiiri
1957年、新潟県生まれ。80年、民放のアナウンサーからフリー。日本経済新聞・日経流通新聞とテレビ東京のメディアミックスの経済番組をはじめ、テクノロジー、新製品などを扱う番組のキャスター、リポーターを中心に各局で活躍。92年、留学のため渡仏し、ODA・NGOの比較調査を行う。94年帰国後、(株)クォンタムリープを設立。「ゆらぎ研究所」と企業を結び、共同開発をコーディネート。96年、(有)アッシュインターナショナルを設立。ベンチャー企業の立ち上げから中小企業のブランド戦略、資金調達までをサポート。マスコミでの経験から、IR活動を中心に、社長のパーソナルにどうブランド力をつけるか、新製品・技術のイメージ作りを戦略的にどう展開するか、などを提案している。スマートバレージャパン実行委員、ビジネスカフェ会員(シリコンバレー)、『ベンチャー大革命』『我が起業家人生』共著他、独自の視点での講演や執筆にも定評がある。
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「普通の人が理解できるビジネスプランか」が鍵

 よく「自分で会社を起こしたことのないコンサルタントは使えない」ということを耳にしますが、私自身、他社をコンサルティングする際にたいへん役に立っているのが、自分が会社を起業して経験した多くの苦い思いです。最初の会社を立ち上げたのは1994年。元東京工業大学の武者利光教授の「1/fゆらぎ」理論を日本人をリラックスさせるために応用できないかと考えたのが動機でした。
 そもそも私は、1980年代の後半、新製品や先進技術を紹介するテレビ番組などを担当していました。取材して驚いたのは、未完成にもかかわらず「新製品」として世に出てしまうケースがたいへん多かったこと。本当にコンシューマーやマーケットが求めているような製品を最後まできっちりつくり上げようという気概が感じられなかった。おりしもバブルの絶頂期。その頃は、日本の社会全体にそういう異常な雰囲気、動きがあり、私は日本の行く末について直観的に危機感を感じていました。
 その後、EC統合をきっかけに渡仏したのですが、向こうに住んでみると、逆に日本のことがますます気になる。これだけ先進国なのに、日本人がいかに認められていないかということに愕然としましたね。そこで2年間の遊学を終えた後、「日本のために何かできることはないか」を模索。その過程で出会ったのが「1/fゆらぎ」だったのです。
 大手から中小までのさまざまな企業をはじめ、一般の方にもわかりやすくするためにプレゼンテーション用の絵本を作成し、1/f理論を応用した商品の開発を必死で説いて回りました。当時はがむしゃらで、とにかく結果を出したい、こんなに素晴らしい理論なのだから絶対世に広めたい、と理想ばかりが先行していましたが、「1/fゆらぎ」はとてもわかりにくい理論であることが大きな障害でした。

  私はいまベンチャーを起こそうという方には、「とにかくわかりやすいものを」「一般の人にわかるようにビジネスプランを説明すること」と強調しています。現在、産業連携でシルバーベンチャーの企業をサポートし、やっと監査法人も決まりましたが、その頃の苦労が全て役に立ち、人生には全く無駄がないと、つくづく実感しています。動かないときには必ず問題があり、その問題の徹底追求からはじめないとダメですね。しかし、その問題から逃げる人がとても多いのです。

マスコミと起業の経験をベースにIRを体系化

 いまベンチャーや中小企業にとって大切なのは、いかに会社にブランド力をつけるかといったイメージ戦略です。たとえばパソコンソフトでウィンドウズを使っている人に「なぜウィンドウズなの?」と問えば、ほとんどは「なんとなく」と答える。これに対し、ある日本の大手メーカーのソフトは、商品そのものの質も高く、何よりとても使いやすいのですが、ブランドイメージの差がシェアの差になってしまっている。とくに日本の場合、会社や製品の認知度が金融機関やキャピタル会社から資金を引き出せるかどうかの鍵を握っている側面があるため、ブランド力の強化は経営に直結する課題といえるでしょう。
 そこで私は、自分自身の起業と長年のマスコミでの経験をベースに、96年、ベンチャーおよび中小企業の立ち上げや建て直しを総合的にプロデュースする(有)アッシュインターナショナルを設立しました。
 IRを専門に手掛けるコンサルティング会社もありますが、彼らはマスコミへのプレゼンテーションの仕方を知らない。大手広告代理店もIRを手掛けていますが、逆に彼らは経営のことは理解していません。私は経営もマスコミも知っている。各媒体を駆使したプロモーション戦略を細部にわたるまでシュミレーションでき、体系的に組み立てられるところは他にはないと自負しています。

経営者に欠かせない条件は、「実直・正直・率直」の3直精神

 ただし、実際にコンサルティングに入ると、ブランド力以前の問題、つまり財務に穴があいているケースがじつに多いですね。このような場合は、専門の財務コンサルタントとの提携で、双方向からの建て直しを行います。たとえば、1つの支店をたたむところまで経営難に追い込まれていた明治創業の和菓子屋のケースでは、とにかく無駄な部分と足りない部分の洗い出しを行いました。長年の税理士をはずし、財務コンサルタントを入れて、金融公庫からの融資になんとか成功。その一方で、副収入を得るためのイベントを企画したり、新製品開発など話題をつくり、マスコミに対する仕掛けを行っていったのです。こうして総合的に手を入れた結果、このお店は1年後に前年比200%の売上げを達成しました。
 多くの経営者とお会いしてつくづく思うのは、「社長の資質を持った人物が社長にならないと、会社はうまくいかない」ということです。ごく当たり前のように聞こえるでしょうが、実際には、経営者としてなるべき人がなっている会社はそれほど多くありません。会社はプロフェッショナルの集団であるべき。ある程度会社を軌道に乗せた段階で自分の経営者としての資質を冷静に判断し、限界を感じたなら、場合によっては他から連れてきてでも、経営のプロにその座を譲るべきでしょう。  経営者として必要な資質のなかでも、私個人として決してはずすことのできない条件は、ゆるがない哲学を持っていることと、なによりも誠実であること。「実直・正直・率直」の3直精神が備わっていることです。会社もつまるところ「人」。信頼に足る人物が、自社の製品や技術について情熱を込めて語っている姿を見ると、「この商品、この社長を絶対表に出したい!」って思いますね。
理念は「必ず向上すること」。
スピード、トータルバランス、エンジョイ、プロフェッショナルの“STEP”が柱です。

■インタビュー・構成/ダイワNVC事務局
■撮影/田村 玲子

以上の内容、大和・日経ベンチャー経営者クラブ誌「NVCマンスリー」2000年6月号に掲載されたものです。


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